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「は、離れなさい、明美。明美?」
英介が玄関に着くとそこには、押し倒されている佐伯と、その犯人である少女の姿があった。
――数分後
少女は英介に渡してもらったスポーツタオルを涙と鼻水で濡らしながら、佐伯に寄り添うようにソファーに座っていた。
英介はというと、同じ目線で座る場所がないので木製の机の上に座っている。
「ひぐっ……ぐすっ」
少女はまだ興奮しているらしく、スポーツタオルを放さない。
少女が泣き止むのを待たずに、佐伯と英介は同時に言葉を発した。
「それにしても英介君、明美が泣いているのを分かってタオルを持って来てくれたなんて流石だね!」
「佐伯さん、その子は誰なんですか?」
言わなくても分かりそうだが、佐伯は空気を変える為に、英介は疑問を解消する為に発した言葉である。
「あ、英介君からどうぞ?」
「いえ、そちらこそ……」
お互いに発言権を譲り合ったが、まさか『殺人鬼が佐伯さんを襲ったのかと思って時間稼ぎの為にタオルを持って行ったんです』と言えるはずもなく、英介はお言葉に甘えて発言権を利用した。
「あの、その子は?」
「あれ? 言っていなかったっけ。俺の1人娘の明美」
サラッと、疑問は解決した。
そういえば娘がいるという話は何度か話題に出たことがあるな、と英介は思い出して納得する。
2つ括りにされた黒髪に、太目の眉毛……確かに佐伯と似ている。
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