ファイル #1 プロローグ

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「で、その明美ちゃんがどうしてここの住所を知っているんですか」 未だに嗚咽をもらしている明美をチラリと見、英介は佐伯に尋ねる。 「それは俺にもよく……近くに連れて来たことは無かったはずなんだがなあ」 困ったように腕を組んで佐伯は考える。すると、少しして明美が佐伯の服の裾を掴んだ。 「………」 まだ瞳には水が溜まっていたが、明美はそれもスポーツタオルの比較的濡れていない所で拭いて、最後に鼻を咬んだ。じいぃんと、何とも言えない音がする。 そして、やっと小さな口を開いた。 「明美、どうしてもパパに会いたい時があって、その時に近くまでパパをつけてきた事があるの」 覇気がない割に、彼女は衝撃的な事実を吐く。警察の娘がストーカー……英介は愉快そうに小さく笑った。 「そうだったのか? お父さん、気づかなかったよ!」 少し大袈裟に反応する佐伯。それを見て英介は「愛されてますね」と笑いながら言った。顔を赤らめた佐伯に、明美は「ごめんなさい、パパ」と言って謝る。 「まあ……仕方ないか。その代わり、もう来てはいけないよ。一応この場所は秘密の場所だから」 明美の頭を優しく撫で、佐伯は溜め息混じりに優しく言う。けれども、明美は首を横に振って佐伯を見つめる。 「嫌。明美、帰りたくない! もう学校……行きたくない」 そこまで言うと、明美の瞳にまた涙が溜まり始めた。慌てて佐伯がタオルで拭う。 「何があったのか説明してごらん。お父さん、怒らないから」 それを聞いて安心したのか、明美はコクリと頷いて再び重い口を開いた。
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