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市立 小見山中学校
電車で片道約30分、徒歩で約10分……明美の中学校に英介達が着いた時には、太陽は真上より西へと移動していた。
まだ生徒達は授業中らしく、彼らの視界には授業を受ける生徒達の姿が小さく映っていた。
「こっちだよ、パパ、お兄さん」
明美はそう言って、新校舎を遮るように中庭へ向かう。少し歩くとそこには、木造建築の校舎があった。と言っても立派な校舎で、新校舎と同じ位立派な創りだ。
「これが、旧校舎?」
「うん」
英介の問いに、明美は小さく頷いて答える。
校舎は二階建て。英介は明美が“紗耶香ちゃん”の首吊りを最初に見た場所へ案内するように言った。明美は佐伯に右手を握られながら、静かに案内する。
なるほど、彼女達がいつも昼食を食べる場所からは旧校舎の殆どの窓が見渡せた。
明美が首吊りを見た部屋は、ギリギリこちらから見える範囲の所にあった。
鍵はそのまま明美が持ち出してきてしまったので、3人はバレないように管理人室の前を通り過ぎる。
明美の話によると、旧校舎は今は管理人室以外は使われていないらしく、たまに部活動をする場所を追い出された生徒達が部屋の鍵を借りにくるくらいだという。
3人は少し長い廊下を歩いた。
すると対向側から、誰かが早足で歩いて来るのが見えた。
完全に部屋の配置を把握しているわけではないのでどの部屋から出てきたかは分からなかったが、その人物は英介達の姿を確認して歩を緩めた。
「あ、あれ? 神崎さん?」
「知り合い?」
その人物の名前を呼んだ明美に、英介は尋ねる。「1組の神崎 香苗さん。紗耶香ちゃんと同じクラスの子だよ」と、明美は小さく耳打ちをした。
「あなた……確か佐伯さんだったかしら? 今は授業中のはずよ。こんな所でサボリ?」
香水のような匂いを漂わせながら、神崎は明美を見て言った。
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