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「あ、明美はその、えと……」
困った顔で必死に言い訳を考える明美を見て、佐伯は代わりに答えた。
「実は今度、うちの娘の……まあ、従兄の彼がね、この学校にくる事になったんだよ。それで先生に頼んで、明美と3人で校内を回っていたんだ」
若干苦しい説明だったが、神崎はまぁ、信じてくれたようだった。
「そうだったんですか。でも佐伯さん、ここより授業風景を見せた方がいいんじゃないかしら。こんなオンボロ校舎、来年には取り壊されるんだし」
「えっ、あっ、そうだね……」
若干早口で喋る神崎に焦りながら、明美はそれだけ返事をした。
「と、所で神崎さんはどうしたの? 神崎さんも授業中なんじゃ……」
何とか必死に疑問を言葉にした明美は、神崎にぎこちない笑顔で語りかけた。その言葉に神崎は怒ったような表情をし、答えた。オシャレな眼鏡の中の瞳は、何とも言えない空気を孕んでいる。
「別にいいでしょ、あなたには関係ないじゃない! 私はただ、忘れ物を取りに来ただけよ、悪い!?」
そう言って、彼女は明美の横を通り過ぎていった。明らかに染めたであろう茶系の長い髪は、風と共に宙を舞いながらすれ違っていった。
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