始まり

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「貴方には……まだ成人していない娘さんがいますね」 黒い瞳が、光を受けたように鈍い色を放つ。 「な、何でそんなこと……」 罪人の発言に、彼は冷や汗をかいた。 「その使い古していそうな可愛いボールペンですよ」 2人の視線が、牢の外の彼の胸ポケットに入っているボールペンに移る。 熊のマスコットキャラクターがついている、緑のボールペン。そのマスコットは所々剥げていて、腕が片方無い。 可愛いというよりも、可哀想なボールペンだ。 「その熊のボールペンは5年以上前に流行っていたマスコットキャラクターの物で、今は売っていません。それにその剥げ具合や損傷からして、娘さんが小さい頃に貴方に送ったプレゼント」 すらすらと、罪人は言葉を吐く。まるで台本を読んでいるかのように。 「でも、妻からかもしれないぞ。何で娘から貰った物だと分かったんだ」 「それは……」 罪人が言葉を紡ごうとした時、コツコツと廊下を誰かが歩く音がした。 「何やら騒がしいな」 肥満に近い体型の、がに股が特徴と言っても頷けるような男が、2人に近づいてくる。
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