49人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
「貴方には……まだ成人していない娘さんがいますね」
黒い瞳が、光を受けたように鈍い色を放つ。
「な、何でそんなこと……」
罪人の発言に、彼は冷や汗をかいた。
「その使い古していそうな可愛いボールペンですよ」
2人の視線が、牢の外の彼の胸ポケットに入っているボールペンに移る。
熊のマスコットキャラクターがついている、緑のボールペン。そのマスコットは所々剥げていて、腕が片方無い。
可愛いというよりも、可哀想なボールペンだ。
「その熊のボールペンは5年以上前に流行っていたマスコットキャラクターの物で、今は売っていません。それにその剥げ具合や損傷からして、娘さんが小さい頃に貴方に送ったプレゼント」
すらすらと、罪人は言葉を吐く。まるで台本を読んでいるかのように。
「でも、妻からかもしれないぞ。何で娘から貰った物だと分かったんだ」
「それは……」
罪人が言葉を紡ごうとした時、コツコツと廊下を誰かが歩く音がした。
「何やら騒がしいな」
肥満に近い体型の、がに股が特徴と言っても頷けるような男が、2人に近づいてくる。
最初のコメントを投稿しよう!