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コツ、コツと足音が2つ。
1人は肥満気味のがに股が印象的な中年男性、もう1人は白髪が印象的な10代の少年。
がに股の男――宮下は、白髪の少年に嫌そうな眼差しを向けながら話しかける。
「もう二度と来るんじゃないぞ。毎回毎回、少年院で大人しくしておけばいいものを、“警察署で牢に入れてくれなければ殺人を犯す”何て嫌な脅し文句を言いやがって。ワシもいい迷惑だ」
「毎回毎回、大変ですね。宮下さん」
他人ごとのように白髪の少年は言う。
苛ついた様子で、宮下は声を荒げて言った。
「お前のことだぞ、お前のこと! 全く……出来る犯罪全て犯している子供何て、こっちとしては死刑にしたいくらいだ」
「それは語弊ですよ宮下さん」
はは、と小さく笑い、少年は続ける。
「僕はまだ、殺人は犯していません。負傷者も出していないですし」
「そこが謎なんだ。何故、小さい罪ばかり重ね続けて牢に入る必要がある?」
宮下は苛々しながら独り言のように言う。少年は小さく笑い、宮下にギリギリ聞こえそうな声で応えた。
「僕はね、罪が許されるうちに犯人の気持ちを少しでも知っておきたいんですよ。そして、貴方達役立たずの見張りもこっそりするという一石二鳥を楽しんでいるんです」
「役立たずだと!? お前はまた捕まりたいのか!」
殴りかけた手を必死に理性で我慢し、宮下は声を抑える。
偶然署内は閑散としていた為に誰にも聞こえていないようだったが、誰かがいれば驚いて振り返ってしまう程の声量だった。
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