二兎を追う者は何を得る

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  秋の風が吹く肌寒い夕刻、定時で仕事を終え会社を出た私は、ふいに声を掛けられた。     「よっ、武田。今終わり?」     「田村君……」     「何だよ、『なんだ、田村か』みたいに」       本気で怒っている風ではなく、笑いながら私の側に来る。       「ち、違うよっ!私ボーッとしてて……」     「冗談だって。なぁ、飯行かない? 俺、外回りから直帰なんだけど、昼飯抜きでさぁ、超腹減ってんの」     「え、と……私……」       返事に困ってしまう。       あの告白以来、何かと田村君は私を誘ってきていた。     その度に理由をつけて断り続けていたけれど、いきなりの登場に、うまいいい訳が見つからない。  
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