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不審者注意と書かれた橙色の回覧板が回って来たのは、夕方のことだった。
「ちょっと、不審者だって。やーねー大介」
実の母である三四子さんは、回覧板を持ったままこっちを見た。
その目からは、明らかな疑惑の色が見えた。
「なんだよ。言いたいことがあんなら、ハッキリ言ってみたらどうだよ」
オレは寝転んで見ていたテレビを消し、三四子さんの方を向いた。
三四子さんはパート──近くに最近出来たスーパーで週5日働いている──から帰ってきたばかりで、服装も洒落たブランド品ではなく、動きやすさを重点にした格好をしていた。
「いいのかい?」
茶の間で正座しながら茶を啜っている三四子さんの目が一段と細くなる。
その目を見た瞬間、オレの第六感が警鐘をならす。
「やっぱり無しの方向で。そういえば、今日の夕飯何?」
歩が悪いと感じたオレは、とっさに今日の晩飯を尋ねることで話を変えた。
一応話題を逸らすことは成功したらしい。
三四子さんはいまだ鋭い目をしていたが、今夜はカレーよ、と言うとどことなく雰囲気も柔らかくなった。
言われてみれば確かに、畳の青臭さに混じってスパイシーな香りがした。
オレは、コンロの火を消しに台所へ向かう三四子さんを見送ったあと、台の上にある回覧板を手に取った。
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