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ドアノブを回す前に後方の台所を振り向くと、今までカレー皿が置かれていたテーブルを拭いている父さんの姿が見えた。
他の家のことは知らないが、夫婦で家事を分担している我が赤坂家では見慣れた光景だった。
父さんが洗濯機から洗濯物をカゴに移し変えている姿も、どちらかが体調を崩さない限り二日に一度は見ることができる。
ちなみにオレの役割は風呂掃除で、これは毎日オレがしなければならない決まりだった。
裏口のドアを開けると、7時を回っていたにも関わらず外はまだ少し明るかった。
夏が本格的に迫ってきたことを、自室の暑さ以外で初めて実感した。
頭上の空はもう夜だったが、西の端の方ではまだ紅の色が残っていた。
色の異なる空の真ん中を流れていた雲は、最初は赤に染まっていたが、瞬きする度に黒に侵食されていった。
「ドアを開けっ放しにしないで早く閉めなさい。虫が家の中に入るでしょうが」
後ろで三四子さんの声がして、自分がドアを開けたまま突っ立っていることに気づいた。
「あ、ごめん」
家の光に惹かれて集まってきた羽虫を右手で払いながら、裏口を閉めた。
風が吹いた。
ぬるく湿った風だったが、カレーを食べて汗をかいていたオレには、身震いするほど冷たい風に感じた。
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