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風邪をひいてはかなわんと、Tシャツの裾で額の汗だけは拭った。
お隣さんの風見家までは、家を出て5メートルほど。
その距離も去ることながら、小さい頃から行き来していたこともあり、目を閉じてていても辿り着ける自信がある。
と言っても、そんなことはしない。
二つの眼を開いて、お隣さんまで歩いていった。
オレはお隣さんの玄関に来たものの、呼び鈴を鳴らせないでいた。
緊張したのか少し吐き気がする。
心なしか目眩がしているような気がして、額からは拭ったはずの汗が再び出てきた。
小刻みに震えていた膝を思い切りたたいて深呼吸をする。
2、3度息をすると汗も引いたようだった。
少し落ち着いたので呼び鈴を鳴らした。
ピンポーンと間抜けな音がしてから少しの間があった。
玄関の明かりに目を開けると真新しいクモの巣があり、一番最初の獲物が巣から逃れようともがいているのが見えた。
「はーい。今開けますよ」
独特な間延びした声が聞こえ、お隣さんである風見明美さんが玄関を開けた。
「あら、大介君どうしたの。久しぶりじゃない?お隣さんなんだからもっと遊びに来ればいいのに」
「いやぁ、それは……。あ、そういえばこれ回覧板です」
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