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「あ、わざわざありがとね。届けに来てくれたの」 明美さんはいつもの柔らかい口調を聞くと、今まで緊張していたのすら馬鹿らしく感じてしまう。 いつの間にか首筋の強張りもほぐれていた。 「いえ、“お隣さん”じゃないですか。そんなこと気にしないでください。そういえば、回覧板に書いてありますが、最近このあたりで不審者が出るらしいんで気をつけた方がいいですよ」  それから数回言葉を交わし、そろそろ帰ろうかと思ったとき、明美さんから立ち話もなんだからと勧められた。 あまり乗り気ではなかったのだが、誘いを無下にすることが出来るはずもなく、渋々風見家に足を踏み入れた。  久々に入った風見家は、何だか懐かしく感じた。 といっても、見慣れたものもいくつもあった。 下駄箱の横には少し錆びた銀色の傘立が。 上には、センスの良い花瓶と活けられた華。 それと、その場に不釣り合いな、色の褪せた赤色の人形もそのまま置かれただった。  赤色の不細工な人形の頭を撫でた。 ゴワゴワとしていて、覚えている感触とは遠く離れていた。 手のひらには、人形の折れた赤色の毛先が付いていて、それをスボンで拭ったときにどうしてか悲しくなった。
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