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傷物の身体を代償に"魔術師"となるか、ありのままの自分を維持し、自分に在らざる者に肉体と精神を明け渡すか。一瞬だが、歩の脳裏をそんな迷いが掠めた。
何となく、歩には感じられた。恐らく、幻魔を拘束する部位によって、後の身体への影響も異なるのだろう。
「魔術師の役目は幻人の殺戮。幻魔によって夢を喰われた、人に在らざる人を殺し尽くすこと。それと、幻魔の拘束部位によって、貴方に備わる異形の力も異なるわ。唯一共通するのは見えざる物を見る、この瞳だけ」
すっかり火のなくなったキセルを机の上に置き、闇恵は少しだけ寂しそうな表情をちらつかせる。
それはたぶん、身体が傷物になったことに対してではなく、同じ境遇に陥ってしまった少年への悲哀の念からもたらされたのだろう。勝手過ぎる、都合のいい解釈しか出来ない自分に嫌気が差したが、それが歩の魔術師になるという決意を一層強くさせた。
「……闇恵さん。幻人の殺し方を、教えてください」
「……いいわ。でもその前に、貴方は幻魔を使役するだけの代償を支払う必要があるわ」
闇恵が部屋の薄明かりの下、ぼんやりとした室内に右手を翳す。
「大丈夫。私の眼はどこが貴方にとっての適合箇所か、ちゃんとわかってるから。でも、少し……痛いわよ」
「へ?」
闇恵の話の前後がうまく聞き取れなかった歩。薄明かりでぼやつく彼女の顔に聞き返そうとした時だった。刹那の後に、闇恵の細く、長い指が彼の左瞳に捩じ込まれてきた。
眼球を貫き、彼女の指は頭蓋の内部にまで届きそうな勢いを有している。痛みを通り越して、歩には自分の状況を理解するだけの感性すら残っていない。ただ、異常に気持ちが悪い。それだけだった。
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