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 歩の身体が例えようのない不快感と激痛に悶絶する。頭蓋の内側で、他者の肉体が蠢いている。この事実だけが、今彼が確認できる唯一のことだった。  だが、それでも闇恵は指の動きを止めない。無表情のまま頬肉を強張らせ、滴る朱を払い除けるように歩の内側を掻き分けていく。 「かっ! あぁ……」  血と涙の混じりあった液体が歩の左頬を覆うように流れ出ていく。掠れるような悲鳴はその凄惨さを物語っているようだ。 「肉体が今ある苦痛を糧に組成され直されているわ。もう、……貴方はヒトじゃない」  狂乱寸前の状態にある歩の耳元で闇恵がぼそりと呟く。それと同時に彼の眼から指を抜いた。  時間にして僅か数十秒。だが、歩には体感した苦痛がまるで永遠に続くような錯覚さえ感じられたようだ。呼吸を荒げ、恐る恐る自分の左眼に触れる。  眼は何事もなかったかのように、平然として存在していた。穴が空いているわけでも、傷が付いているわけでもない。ただ、瞳孔と光彩の放つ色が右のそれと比べて、若干異なっているだけだ。 「何が見える?」  そっと、囁くような声で闇恵が耳打つ。諭すような口調は強張った歩の表情を幾分和らげたようだ。  混濁する意識の中、歩が両眼を見開く。見える。先ほどと何も変わらない部屋の風景が。 「闇恵さん、僕は……」  瞬間、歩ははっと息を飲んだ。平然と立っている闇恵の胸元に、奇形化した人骨が絡み付いていたのだ。頭蓋骨を項垂れさせ、カチカチと上顎骨と下顎骨を打ち鳴らせている。
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