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「そう硬くならなくてもいいのよ。少し独特な雰囲気を持ってる館だけど、直に慣れるわ」
独りでに照明やら旧式ランプやらに火が灯り、緋い絨毯の敷き詰められた巨大な玄関ホールが姿を現せた。
館はホールから二階に区分されており、中央から二階両脇に伸びる大階段。一階の両脇には合わせて六もの豪華絢爛な扉が立て付けられている。
二階の中央部分には、美しい青年と湖を描いた巨大な絵画が飾られており、頭上には巨大なシャンデリアが備えられていた。
「外のイメージとは全然違う」
「内と外に関連性なんてものは必要ないの」
内と外、それらが表裏の関係を成すからといって、そこに絶対的な関連性などありはしない。相反する二つの物事が平行に進行することが真理ならば、世界の在るべき法則を狂わしかねないのだ。
そして、そこに関連性を持たそうとするのは単なる人の願望に過ぎず、踏み入ってはならない聖域を侵すことに繋がる。
「まずは貴方の問題ね」
ニッコリと闇恵が歩の肩に両手を乗せる。重みのない、逆に何か救われるような優しい手だった。
「言葉にできる?」
「……夢を見るんです」
「夢?」
思いもよらぬ歩の発言に、闇恵の好奇心が駆られる。夢についての話など、いったいいつぶりだろうか、と目を細める。
「はい。でも、その夢は僕の夢であって僕の夢じゃないんです。例えるならそうですね、心の奥底から僕を駆り立てる欲望、みたいに僕じゃない別の僕がいるような、そんな不思議な感覚なんです」
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