1/

5/21
前へ
/21ページ
次へ
 上手く伝えることのできない自分に歯痒さを覚えたのか、歩がギリリと歯軋りをする。闇恵はそんな歩の話を聞いて、何かを考えるように彼の瞳を見つめていた。 「夢……か。羨ましい煩いね。もちろんいい意味で、だけど」  闇恵が懐から幾つもの鍵が付けられた輪を取り出す。その中から一つの鍵を玄関ホールの適当な扉に差し込んだ。 「立ち話もなんだし、紅茶でも飲みましょ」  ガチャリと扉が開き、質素だが、掃除の行き届いた綺麗な一室が姿を現せた。  中に入ると、やはり明かりが独りでに灯り、まるで部屋そのものが生きているようだ。  歩と闇恵は適当なソファに腰掛け、味の濃い紅茶をすする。 「歩君、キミ、夢を喰らう悪魔の話を知ってる?」 「いえ、初めて聞きました」  彼女の唐突な質問。その質問で、歩の片眉が無意識のうちにピクリとつり上がる。が、闇恵はそれを見つつも流し、夢を喰らう悪魔についての説話を切り出してきた。 「名前の通り、夢を貪り喰らう悪魔のことよ。これは他者から喰らった夢をまるで自分の夢のように所持し、暫くの間、対象の体内に潜伏するの。この悪魔が身体に潜伏している間、寄生された対象の者は悪魔の喰らった夢を自分の夢としてみるの。もちろん、その夢は紛う事なき自分の夢なんだけどね。でも、問題はここからなのよ。悪魔に喰われた夢を見ていると、なんだかそれが自分の夢じゃないような違和感を覚えてくるの」 「つまり、僕の体内には……」  悟ったように語り継ぐ歩。闇恵の言う"夢を喰らう悪魔"が自身の体内に潜伏していることは、もはや完全に黒だ。彼女は白煙を吐き出し、火の少なくなったキセルを再びくわえると、静かに頷いた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加