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上手く伝えることのできない自分に歯痒さを覚えたのか、歩がギリリと歯軋りをする。闇恵はそんな歩の話を聞いて、何かを考えるように彼の瞳を見つめていた。
「夢……か。羨ましい煩いね。もちろんいい意味で、だけど」
闇恵が懐から幾つもの鍵が付けられた輪を取り出す。その中から一つの鍵を玄関ホールの適当な扉に差し込んだ。
「立ち話もなんだし、紅茶でも飲みましょ」
ガチャリと扉が開き、質素だが、掃除の行き届いた綺麗な一室が姿を現せた。
中に入ると、やはり明かりが独りでに灯り、まるで部屋そのものが生きているようだ。
歩と闇恵は適当なソファに腰掛け、味の濃い紅茶をすする。
「歩君、キミ、夢を喰らう悪魔の話を知ってる?」
「いえ、初めて聞きました」
彼女の唐突な質問。その質問で、歩の片眉が無意識のうちにピクリとつり上がる。が、闇恵はそれを見つつも流し、夢を喰らう悪魔についての説話を切り出してきた。
「名前の通り、夢を貪り喰らう悪魔のことよ。これは他者から喰らった夢をまるで自分の夢のように所持し、暫くの間、対象の体内に潜伏するの。この悪魔が身体に潜伏している間、寄生された対象の者は悪魔の喰らった夢を自分の夢としてみるの。もちろん、その夢は紛う事なき自分の夢なんだけどね。でも、問題はここからなのよ。悪魔に喰われた夢を見ていると、なんだかそれが自分の夢じゃないような違和感を覚えてくるの」
「つまり、僕の体内には……」
悟ったように語り継ぐ歩。闇恵の言う"夢を喰らう悪魔"が自身の体内に潜伏していることは、もはや完全に黒だ。彼女は白煙を吐き出し、火の少なくなったキセルを再びくわえると、静かに頷いた。
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