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「……幻魔の除去は不可能なの」
発せられた言葉には茨が含まれていた。歩の顔に苦々しい微笑が浮かぶ。言われた言葉の意味をまだ十分に理解していないのだろう。
更にそこへ、追い討ちをかけるように闇恵が言葉を紡ぎ出す。
「さっき私は貴方に夢を見ることが羨ましい、と言ったわね?」
歩が無言で頷く。やはり彼女の意図が図れない。何を考えているのかはもちろん、何をしたいのかまで、不明な点が多すぎるのだ。
「私はね、今の貴方と同じように、幻魔に寄生されていたのよ。でも師に才能を開化させられたの。忌々しい、望まない才能をね」
歩には思い当たる節があった。「貴方には才能があるわ」と闇恵が言ってきたセリフ。それが脳裏に鮮明に甦る。
「結果として、私は自分を失わずにすんだ。でも代わりに世界の、人間の汚さを直視することになった。そして、夢を失った」
「夢を……?」
いぶかしむような眼を彼女に向け、被せられた帽子を脱ぐ。人肌に触れ、心地よい温もりを持つ帽子は持っていて安心できる。
「歩君、私の言いたいことわかるわよね?初対面の相手に自分を任せることに抵抗があるのはわかる。でも貴方には選択肢があるの。このまま何もせずに自身の心の存在を失うか、もしくは夢を失い、望まぬ世界を見ることになるか」
優しさに富んでいた闇恵の瞳が、鋭く光る。歩からすれば最良の選択肢など言わずともわかっているつもりだった。どちらにせよ自分に得などないのなら、代償の少ない方を選ぶしかないのだと。
歩は俯き、暫くの間黙考すると闇恵に視線を戻し、口元をキュッと引き結んだ。そして口を開く。
「貴女と同じ道を行きます」
それは決意に満ちた、偽りのない言葉だった。
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