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すると、闇恵は安堵の息を漏らした。瞳がまた優しい彼女のものに戻っている。歩には何があったのかまったくわからない。
「貴方の返答に安心したわ。もし貴方がその道を拒絶したら、私は近い未来、貴方を殺さなきゃならなかったから」
刹那、歩の背筋に怖気が駆ける。自分を見失った自分が彼女によって殺される。そんな光景はまるで想像できなかったが、殺されるという言葉に過敏に反応してしまった。
「幻魔を抑え、そして操る。それが私と貴方に備わっていた才能。私の師は幻魔を従える者を定義的に"魔術師"と呼んでいたわ」
「魔術師……」
歩はふと、複雑な心境に陥った。幼少時は魔法使いといった類に強く影響され、いつか自分もなってみたいと思っていた。それが皮肉にもこんな形で現実になるなど夢にも思わなかったのだから。
「僕は何をすればいいんですか?」
「まずは貴方の身体の一部を"代償"として幻魔に差し出すわ」
「そ、それって」
「そうね。西洋の悪魔使役の魔術と似てるわ。これは身体の一部に幻魔を拘束して、意のままに操るための手段だから若干違うんだけど」
それだけ言うと、闇恵は歩の脇から帽子を取る。それを手短な棚の上に置くと、突然、ドレスを脱ぎ始めた。歩は彼女の予想外の行動に慌てて目をそらす。赤面し、モゾモゾと背後で着替える闇恵の姿を思わず想像してしまった。
「や、闇恵さんは身体のどこを幻魔に捧げたんですか?」
黙りこくっていることに耐えきれず、場を取り繕うため、さりげなく訊いてみた。背後のモゾモゾという音はまだ続いている。
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