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廊下を進んで行くと1698とプレートが掛かった部屋についた。
この部屋以外に人の気配は感じられない。
春風はドアを足で蹴り開けた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「…何してんの?」
確かに春陽はいた。
いたのだが…明らかに人質らしくない。
「あら、春風。お久しぶりねぇ。あっ、今ちょうどクロスワードをしていたの!春風もやらない?」
…先程までの自分達を見ているようだ。
「…デジャヴ?」
「え?」
「いや、こっちの話。…一つ聞いてもいい?」
「ええ。」
「何で逃げなかったの?」
春陽は微笑む。
「だってスペインって楽しいんですもの。」
「…そっか。」
春風は春陽との血の繋がりを再確認した。
「…とりあえず3分以内に必要な物をカバンにつめて。」
「?何故?」
春風は溜め息をつく。
「逃げるから。」
「…。」
春陽は静かに首を振る。
「行けない。」
「…は?」
冗談かと思い聞き返すが春陽の目は本気だった。
「…るの。」
「へ?」
「ルークの姿が父に重なるの。
私は…あの人に死んでほしくないの。
私が逃げたら春風も逃げてしまう。だから…。」
だから行かない。春陽の意志の硬さは本物だった。
…理解できない。
死んでほしくない?
いずれ人は死んでしまうのに?
確かに自分達が逃げればルークは数日で殺されるだろう。
しかしそれは裏社会では当然の原理。
それを拒む春陽が春風には理解出来なかった。
春風は深く息を吐く。
「…じゃあ置いて行く。」
自分が逃げれば彼女は用済みとなる。
おそらく殺されるだろう。
しかし今の春風には春陽を助けたいという意志はない。
「行かせません!!」
春陽が春風の行く手を阻む。
「…どけ。」
春風は一般人なら気絶する程度の殺気を放つ。
春陽なら一瞬で床に倒れるはずだった。
だが…
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