誰かの記憶……

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「よいしょ、よいしょ」 暗く細長い道を掛け声を自分に掛ながら酒の入った樽を運ぶ。 小さな男の子が樽を運ぶ光景はなんとも不思議なものだ。 「(ちょっと疲れたし休憩しよっと)」 男の子は樽をその場に置き椅子代わりにして足をぷらぷらさせ休憩した。 「(この前運んだばっかな気がするけどなぁ、お酒ってそんな早く飲んじゃう程美味しいのかな? 一口だけ……)」 男の子が樽の蓋を開け手を入れようとした瞬間身体の自由が効かなくなった。 「うぁ………ぅ…………」 呼吸もできないまま意識を手放してしまった。 ―――――――――― ―――――― ――― ―… 「どぉーよ開発されたばかりの拘束陣の効果は!」 「…上々………」 ヘラヘラ笑う男に対し手のひらに収まる程の蒼い水晶を持った女は表情を変えないまま答えた。 「はぁ…はぁ……」 母親の呼吸が荒くなり誰が見ても苦しんでいる状態を見て父親が駆け寄った。 「大丈夫か?!粉雪!」 父親が粉雪と呼ばれた母親を抱き抱える。 その間にも粉雪の顔色は悪くなるばかりであった。 そんな苦しい表情の中でも笑顔を作り 「はぁ…英樹……私は…大丈夫……だから……はぁ…はぁ…闘って……」 「ッ!………」 父親、英樹は苦虫を潰す表情で 「お前らの犬でも何でもなってやる!早く粉雪に掛けた陣を解け!」 粉雪をしっかりと抱き抱えながら雄叫びにも近い声量で英樹は男に言い放った。 しかし男は 「んっん~、どうしようかな。なんかそそる物があるからこのままで良い気がするだよな」 「……………変態」 「ギャハハハハ、たしかに変態かもな!」 英樹はなかなか粉雪の拘束を解かない事に苛立ちを覚えてきた。
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