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触れられてはっとし、幸村のその手を弾いた。
「shit!何しやがる!いきなり現われやがって!何しに来た!!」
「返事を聞きに参った」
怒鳴る己とは対照的に、幸村は穏やかだった。
「Ha!雪はとっくに溶けたぜ」
「覚えていて下さったか!」
華が咲いたように幸村の顔が明るくなる。にこにこと嬉しそうだ。それが癪に障
り、ぷいと横を向いてしまう。
「覚えてなんかいねぇ」
「でも、今……」
「ここに来て、思い出したんだ!」
少し上にある幸村の顔を強く睨みつける。
「そんな風には、見えなかったが」
風の向きが変わった。前にいる幸村の背に向かって吹いていた風が、俺の背から
幸村を通り抜けるように吹くと、幸村の跳ねた髪の毛を揺らした。遮る物のない
瞳は、戦場で対峙した時のように強く煌いていた。
「返事なんて、ありゃしねぇ。ふざけたこと言って、俺を煩わせるな」
「『煩わせた』ということは、少しは考えてくれていたということでござるか?」
いつもは犬みたいにコロコロ変わる表情が、崩れない。
「な、」
「政宗殿の頭の中は、某でいっぱいになったでござるか?」
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