72人が本棚に入れています
本棚に追加
少し上にあったはずの顔はいつのまにか目の前で、息がかかる程近くに来てい
た。幸村が喋るたび、唇の前の空気が小さく震えた。
「っ、」
呼吸が止まる。
こんな幸村、俺は知らない。頬が熱を持つのが感じられた。
「政宗殿、それは良い返事にとって良いのか?」
珍しく真面目だった表情は崩れ、嬉しそうにまた人懐こい笑顔に変わる。
「わ、おい!」
伸びてきた腕にぎゅっと絡め取られる。温かい、冬が長かったせいか余計にそう
感じた。
「一月我慢したかいがあった」
耳の横でポツリと呟かれたその一言は、とてもとても嬉しそうだった。
「あ゛?what?何だって?」
「う゛、あ、某、今声に……」
「出してたぜ?」
俺の身体に絡ませていた腕を慌てて解くと、目をそらした。己の米神がぴくりと
動くのがわかった。口角を上げて無理矢理笑みをつくるが、口元が引き攣る。
「その、」
「本当はもっと早く来れたってことか?」
「否、それは……」
「俺を余計に待たせたんだな?」
「ま、政宗殿……」
ゆっくり立ち上がると、幸村がじりじりと後ろにさがって行く。
「どういうことだ」
「その、実は……」
最初のコメントを投稿しよう!