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冬が長いこの地域では、しんしんと雪が降り積もり、その下で静かに春を待って
いた。そんな時間も徐々に流れるもので、太陽が顔を出す時間が段々と長くなっ
てきたかと思うと、雪は溶かされ緑が顔を出しはじめる。青々と晴れわたった空
は春の風を運んできて、蕾が花開く季節になった。
幸村と最後に会ってから、気が付けば日課のように高台に足が向いた。年月を表
すように肥えた幹は、空に向かって枝を伸ばす。あちこちについた蕾は開きはじ
め、桜の花を咲かせた。風が吹くと雪のように桜の花弁はひらりひらりゆっくり
舞った。
『雪が溶けて、春になったら―――』
確かに幸村はそう言った。しかし、雪が溶けてからもう一月も経つというのに、
一向に現れる気配はない。それに憤りを感じ、何故こんな思いをしなくてはいけ
のかとまた憤る。幸村が言ったように“奴のことで頭をいっぱいに”なんてしたく
はないのに、知らぬうちに考えていることに気が付く。それがまた腑に落ちなく
て、来なくていいと思うのにどこか心の隅で期待している自分が頭をのぞかせる。
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