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小高い丘にその屋敷はあった。
対面に望む山々、村を見下ろすその景色は普段なら絶景に値するだろう。
しかし今は悲惨なものだった。
煙と炎に包まれ山はおろか、村の様子までもがあまり伺えない。
屋敷の前に縄で手を後ろ手に縛られた一組の夫婦がいた。二人共、地面にひざまづく様に地に膝を付いていた。
「まだ屋敷の中にいたとは…いささか驚きですね」
細身の男が大斧を持った男を従え不適な笑みを浮かべながらゆっくりと夫婦に向かって来た。
「どうですか?自分の村が陥ちて行くのを見ている気分は…」
「………」
二人は何も言わない。夫はジッと前を見据え、妻は俯いたまま動こうとしない。
「さて…あらかたの始末は終わったのですが…あなた達が先に逃がした子供達は何処にいるのですか?」
「……貴様らに言う位ならば…死んだ方がマシだ」
細身の男を睨み付けながら夫はそう言い放った。
ピクッと細身の男の眉毛が動いた。
次の瞬間、細身の男が夫目掛けて蹴りを放った。
男の蹴りがまともに夫の顔面に直撃し、夫が倒れ込む。
「フン、混り者が…口を慎みなさい」
起き上がった夫が再び男を睨み付ける。
その口からは真っ赤な鮮血が地面に滴り落ちた。
「もう一度訊きます、子供達は何処に逃がしましたか?」
夫は返事の代わりに男の靴に口の中に溜まった血を吐きかけた。
「貴様らの様な外道に教える位なら…この命、いくらでもくれてやる」
再び、男が夫に蹴りを放つ。今度はみぞおち辺りに当たり夫が呻き声を上げながら倒れた。
その頭を踏み付けながら男が微笑する。
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