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じーっじじぃ。
空から照りつける太陽。それは暑さに顔をしかめる私を嘲笑うかのように、ぎらぎらと真っ赤に光る。
じーくー、じわっ。
それにこのセミの鳴き声。なんとかならないだろうか。あちこちで求婚のための合唱が行われ、騒音じみた耳障りな音が頭の奥の方で反響している。
私はそれらから目を背けるように、ごわごわした麦わら帽子を目深にかぶり直す。
「ねえ」
気を紛らわせると同時に構ってほしくて、私は庭の茂みに声を放った。
すると、がさがさと緑の葉が揺れ動き、それに驚いた羽虫が慌てて空に飛び立っていく。けれどそれだけだ。
「ねえってば」
私は苛立って少し語気を荒くする。
するとようやく茂みの下から黒い足袋が見え始め、続いて紺色の野良着に白いTシャツが見え始める。
ゆっくりと茂みから姿を現したのは、小柄ながらもがっしりとした体躯をした男だ。
そののっそりとした動きは、どこか大型の動物のようなユーモラスさを感じさせる。
「ん? 呼んだか?あや」
額から流れ落ちる滝のような汗。それを首に巻いたタオルでぬぐいながら、ぶっきらぼうな声で聞いてくる。もう少し愛想良くしてくれてもいいのに。
「あのね……」
私はため息をこらえ、庭に咲く紫陽花を見ながら尋ねる。
「なんで紫陽花って言うのに、ここの花はたまにピンク色しているの?」
それはちょっとした疑問だった。ふと気になっただけ。
でも、大悟はガラス玉のようなきらきらした瞳をこちらに向けてきた。
「気になるのか?」
「うん!」
「そうだなぁ……」
大悟はしばらく考え込んだ後、至極真面目な顔をしてこちらを見た。
「ピンクは特別でな。食べると甘いんだよ」
「え、ほんとに?」
「ああ」
大悟は深く頷き、紫陽花のほうにあごをしゃくる。
。
食べてみろってことかな。
私はワクワクしながら紫陽花に近づいた。
ちらりと彼を見る。彼は微笑し、もう一度深く頷いた。
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