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私はそっと手を伸ばす。一面に咲き誇る淡い桜色の紫陽花、それから小ぶりな花びらを引っ張ると、あっけないほど簡単にちぎれた。
それをしばし見つめ――口に含んだ。
そして噛みしめる。
「どうだ?」
どうって言われても……
「……なんか味しないよ。むしろ苦い」
「そりゃそうだろ。さっきのは嘘だ」
その言葉に、私は顔をしかめ口内の物を慌てて吐き出した。
騙された。
少し涙目で大悟を睨む。
そんな様子を見て、大悟はガハハと笑いひざを叩いていた。
「……」
私はゆっくり無言で彼に近づく。
「お、おい。悪かったって! そんな怒るなよ、冗談だろ」
そんなこと言ったって、もう遅いんだから。
「……さいってぇ」
両手を前に突き出し、言い訳じみたことを言う大悟に私は……
**
「ふぅ……おいし」
縁側のふちに腰掛け、履いていたサンダルを脱ぐと、私は足をぶらぶらさせる。
ひとしきり暴れたらのどが渇いたので、私たちは縁側でラムネを飲んでいた。
のどを焼くような爽快感に、疲れた体に行き渡るような甘さに、私はすっかりご機嫌だ。
「いててて……」
そう、そんな大悟の声も気にならないくらい。
「大悟が悪いのよ。私に意地悪するから」
「わ、悪かったって。あや」
「だめよ。ゆるさなーい」
そんな私の言葉におろおろする大悟。普段はあまり表情を見せない彼の様子に、こらえ切れずに吹き出し、笑い出してしまった。
私たちはいわゆる幼馴染だ。
商売をしている私の父はとても忙しく、いつも国中を駆け巡っている人だった。それについていく形で、母も常に父の傍らにいた。
そんな状況だったので、私はいつも大きな家に一人ぼっちだった。むろん、使用人はいたが、どこかよそよそしい態度で私に接してくるので、好きになれなかった。
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