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両親に会えるのは半年に一度くらい。
それも、数日すればすぐに発ってしまう。
だから私は、たまにこみ上げてくる孤独や寂寥感から泣き出してしまうのだった。
その日も私は部屋で泣いていた。
けれど、いつもとは違うことがあった。
「何で泣いているの?」
はっとして目を向けると、庭の塀によじ登った少年がこちらを見ていた。
私がきょとん、としていると、
その少年は何を思ったのか、急に塀の上で逆立ちを始めた。
だが、とても狭い塀の上では難しいらしく、すぐにバランスを崩す。
あぶない。
そう思った時には裸足のまま彼のところへ走り出していた。
着ていた鮮やかな赤い着物が汚れるのも気にせず、こちらに頭から落ちてくる彼を抱きとめた。
けれど、非力な私の力では支えきれず、結局二人で地面に転がった。
あんなにきれいだった着物は無残に泥だらけ。けれど、少年はどうやら無事のようだった。
私がほっとしていると、少年はにっと笑ってこう言った。
「泣いてるより、そっちの方がかわいいぞ」
――それが、私と大悟との出会いだった。
「どうかしたんか?」
「ううん。なんでもない」
いつの間にか周りが見えなくなっていたようだ。大悟のビンは空になっており、私もラムネを全部飲み干した。
からん。
逆さにしたビンを元に戻すと、中のビー玉がそんな音を立てた。
私は改めて庭に咲いた紫陽花に視線を移す。
しばらくそうしていると、不意に右側に腰掛けていた大悟が口を開いた。
「――紫陽花ってのはな、土壌の状態によって色が変わる。地が酸性だと紫色に、アルカリ性だと淡いピンク色になるんよ」
親父の受け売りだけどな。
そう言って恥ずかしそうに笑う大悟。
「へえ……じゃあ、ここのはある、あるか……」
「アルカリ性」
「もう! ちょっと私の言葉取らないでよ」
「はは、すまんすまん」
むくれる私なんてどこ吹く風。
それに口を尖らせる。
けど、私は同時に感心もしていた。
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