17人が本棚に入れています
本棚に追加
大悟はとても物知りで、私の知らないことをたくさん知っている。
彼といるととても楽しくて、両親がいないことの寂しさを忘れることができた。
そして、それが恋心に変わるまで時間はかからなかった。
私はある日、思い切って大悟にそれを打ち明けた。
いつもの倍の速さで脈打つ胸に手を当てて顔を伏せていると、
「俺なんか、一目見たときからお前のことが好きだったんだぞ」
拒まれたらどうしよう。
そう思っていた私にきた突然の不意打ち。
それに急に力が抜けてへたり込みそうになる。
それを慌てることなく支えてくる大悟。
おまけにこんな事を言ってくる。
「俺がずっとお前を笑顔でいさせてやるからな」
ずるい。
私はただ真っ赤になって彼を見ていることしかできなかった。
それからも、私は毎日を彼と過ごした。付き合い始めたとは言え、不器用な私たちは相いも変わらずの日々を過ごしていた。
ずっとずっとこんな日が続いていくんだと思っていた。
けれど……
その時、手の甲に何かが当たった。
「あ……」
それは水の粒だった。
そう思うと同時、すぐに大量に雨粒が降り注いでくる。
それに慌てて家に上がる。
「通り雨か。しばらく経ったらやみそうだな」
「そうね……」
でも私はそれどころじゃなかった。今までずっと目をそらしていたけれど……
「ねえ」
「なんだ?」
私は思い切って口を開く。
「どうしても、行くの?」
「……ああ。辞令が来たからな」
「でも、でも……そうだ、お父様なら。お父様に頼めばきっと!」
「あや」
大悟はやんわりと首を振った後、そっと私を抱きしめる。
「俺は、お前を守るために行くんだ」
彼の目は穏やかだけれど、どこか固い決意のようなものを秘めていた。
ぎゅっと唇をかむ。
分かってる。
分かっているんだ。どうしようもないことくらい。
けど、それでも私は……
そんな気持ちを押し留め、私はそっと離れると、赤い髪留めをとった。
流れるように私の髪が鮮やかに広がる。
そしてそれを、大悟に手渡した。
最初のコメントを投稿しよう!