幻想夏談

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大悟はとても物知りで、私の知らないことをたくさん知っている。 彼といるととても楽しくて、両親がいないことの寂しさを忘れることができた。 そして、それが恋心に変わるまで時間はかからなかった。 私はある日、思い切って大悟にそれを打ち明けた。 いつもの倍の速さで脈打つ胸に手を当てて顔を伏せていると、 「俺なんか、一目見たときからお前のことが好きだったんだぞ」 拒まれたらどうしよう。 そう思っていた私にきた突然の不意打ち。 それに急に力が抜けてへたり込みそうになる。 それを慌てることなく支えてくる大悟。 おまけにこんな事を言ってくる。 「俺がずっとお前を笑顔でいさせてやるからな」 ずるい。 私はただ真っ赤になって彼を見ていることしかできなかった。 それからも、私は毎日を彼と過ごした。付き合い始めたとは言え、不器用な私たちは相いも変わらずの日々を過ごしていた。 ずっとずっとこんな日が続いていくんだと思っていた。 けれど…… その時、手の甲に何かが当たった。 「あ……」 それは水の粒だった。 そう思うと同時、すぐに大量に雨粒が降り注いでくる。 それに慌てて家に上がる。 「通り雨か。しばらく経ったらやみそうだな」 「そうね……」 でも私はそれどころじゃなかった。今までずっと目をそらしていたけれど…… 「ねえ」 「なんだ?」 私は思い切って口を開く。 「どうしても、行くの?」 「……ああ。辞令が来たからな」 「でも、でも……そうだ、お父様なら。お父様に頼めばきっと!」 「あや」 大悟はやんわりと首を振った後、そっと私を抱きしめる。 「俺は、お前を守るために行くんだ」 彼の目は穏やかだけれど、どこか固い決意のようなものを秘めていた。 ぎゅっと唇をかむ。 分かってる。 分かっているんだ。どうしようもないことくらい。 けど、それでも私は…… そんな気持ちを押し留め、私はそっと離れると、赤い髪留めをとった。 流れるように私の髪が鮮やかに広がる。 そしてそれを、大悟に手渡した。
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