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――それが、俺が思い出せる全てだ。
気が付くと、俺はなぜか子供になっていた。
いや、子供になったと言うより……
隣にいる大男を見る。
端正な顔立ちが、今は悩むかのように歪められている。
それに頭が痛くなる。
なにせ、20も過ぎたいい大人が、必死になって駄菓子屋でアメを物色しているのだ。
逃げ切れたのはいいが事態は何一つ好転してはいない。
何度目か分からないため息を吐く。
認めたくないが、俺たちの体は入れ替わった。
おそらく、あの老人のせいだ。
あの老人の話では、日没までにあの子の母親を探さないといけない。
そんなのごめんだが、こんな体で生きていくのはもっとごめんだ。
「おい、こーじ」
舌足らずの声で男に話しかける。名前と年齢だけは聞いていた。すると、
「なあに? パパ」
とんでもないことを言いやがった。
「……パパ?」ドン引きの店主に飴玉の代金を渡すと、素早く店を出る。
「ケイって呼べって言ったろうがぁ!」
子供の甲高い声ではいまいち迫力に欠ける。
それでもそう怒鳴ると、その瞳に大粒の涙を浮かべ、
「うえ、うえ――――ん」
豪快に泣き出した。
「お、おい!」
あわてて言った声はテノール歌手のような泣き声にかき消された。
うえーんと言うより、もはやウオオオンと言う感じの叫びになっている。
「ほ、ほら、落ちちゅけって! 飴玉やるからな、な?」
「ぐずっ、ほんと?」
飴を受け取ると、途端に顔をほころばせる孝二。
傍から見れば、三歳児から飴を受け取り喜ぶ大人。かっこよすぎて涙が出そうだ。
……俺、もうこの町歩けねえ。
ともあれ、まずはこいつの母親を探さなければ。
「なあなあ」
「ん? なあに?」
先ほどの泣き顔が嘘のような笑顔。
「お前のおかーさんは今どこにいりゅんだ?」
「んー……わかんない」
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