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ママ。そう言って孝二が指差したほうを見ると、二人の男女が駅へと消えていこうとしているところだった。
「ママだ! 間違いない!」
「お、おい」
急に走り出す孝二。
それに二人はびっくりしたのだろう。こちらを見て足を止めた。
女性が口を開く。
「あんただれ?」
にらむような女性の言葉におびえたように立ち止まる孝二。
そこでようやく俺も駆けつけた。
息も絶え絶えの俺を見ると、途端に狼狽し始める女性。
見たところ三十くらいだろうか。けばけばしい化粧に真っ赤な衣服。とてもまっとうに働いている奴だとは思えない。
男は若い。
俺とそんなに年齢は変わらないんじゃないだろうか。
白いジャケットに両手を突っ込み、黒いサングラス越しに俺と女性を交互に見やると、
「子持ちかよ」
そうつぶやき、舌打ちを残し去っていった。
それを追おうとする孝二の母親だったが、俺と目が合うと断念し、いらいらとしたため息を吐いた。
もう一度こちらを見る母親。
そのまなざしは、まるで道端に転がるごみを見るように冷ややかなものだった。
だが、
「あんたが……」
母親が近づいてくる。
徐々に熱を帯びるそのまなざし。
見下ろされた俺は、それだけで重苦しい威圧感を受ける。
「あんたが、あんたさえいなくなればあたしは幸せになれるのよ。孝二、あんたさえいなければ!」
それにびくんと震える男の姿が目に入る。
「消えてよ!いなくなってよ!
あんたがいるから、あたしの人生はめちゃくちゃなんだよ!」
そうまくし立てる孝二の母親。
なんて理不尽な奴だ。
てめえの人生のツケを全部なかったことにして、子供のせいにする気かよ。
自分だけがよければいいのか?
自分だけが被害者気取りか?
「ママ……」
その声を聞いたとき、俺の中で何かが弾けた。
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