チェンジ!

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「……ふざけんな」 「な、に?」 「ふざけんなって言ってんだよ!」 俺は母親をにらみつけるように見上げる。 幼子から返答が来るとは思わなかったのだろう。 俺の声と態度に、おびえたように動きを止める。 「こいつのせい? こいつがいるから幸せになれない? そんなわけねえだろうが! 何でもかんでも人のせいにしやがって。今のオマエがあるのは、全部お前のせいだろ! お前が築いてきたものは、全部他人のものじゃない。あんたの……あんたのものだろうが!」 「――――っ!」 「それを全部こいつのせいにして……あんたにゃ、いったい何が残るって言うんだよ! 確かに人生にはやり直しがきくよ。でもな…… それはリセットするって、全部なかったことにするってことじゃないんだよっ!」 無言で目を見開く母親。 何考えているのか知らないが、 だめだ。こいつにゃ孝二は渡せねえ。元に戻れなくなるとしても、こいつだけには。 「コージ」 「え?」 「いくぞ」 戸惑いながらも孝二はついてきてくれた。 俺はそのことに安堵し、注意を怠ったのが運のつきだった。 地面に転がっていた空き缶。 それに足をとられ、俺は道路に転がり出てしまう。 しまっ…… ――それから先はスローモーションだった。迫り来る灰色のワゴン車。 それに俺の全身の血は凍りつき、あまりの恐怖に目を閉じた。 …… …………… ……………あ、れ? けれど、予想した衝撃はなく俺は混乱する。 どういうことだ? 俺はおそるおそる闇に包まれたまぶたを押し開く。 すると…… 目の前にあったのは、真っ赤な衣服。 え? その正体はすぐに分かった。 孝二の母親だった。 その両手を広げ、通せんぼをするように両手を大きく広げている。 その鼻先で車は止まっていた。 ここからでも、ドライバーのおっさんの驚いた顔が見えた。
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