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何と無く、ただ何もしない毎日を送っていた。
木漏れ日に目を閉じ、眠気を誘おうとした刹那。
『さっちゃーん!』
幸の耳に痛い程高い声が轟いた。
彼女は面倒臭気に重い瞼を持ち上げると、走ってくる女性へと視線をスライドさせた。
その女性は相も変わらず「さっちゃん」と呼びながら走って来ている。
幸の母親、【御子柴 茉(マツリ)】だ。
白いドレスと白い大きな帽子を身に纏い、長いウェーブのかかったブロンドの髪を持つ容姿で、今日のような快晴の天気では眩しいくらいである。
彼女の母(幸の祖母)は外国人で、彼女はハーフ。
つまり、幸自身はクォーター。
ウェーブのかかったブロンドの髪は、茉から受け継いだのだろう。
『さっちゃん、ママねっクッキーを焼いてみたのっ』
語尾にハートマークが付きそうな癖のある声。
なにより、香ばしい香りを放つカゴを手に、はしゃぐ姿はまるで子供のよう。
幸は重い身体をベンチから引き離すと、茉の近くへと歩み寄った。
「そうなんだ、食べていいの?」
幸は微笑しながら問い掛ける。
案の定、茉は「さっちゃんのために作ったから」と、カゴを幸に押し付けた。
「ありがと」
礼を言うと、茉はスキップをしながら豪邸に戻って行った。
その場に一人取り残された幸は、クッキーが入っているカゴの蓋に手を掛けた。
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