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『自分の…気持ちに嘘は、つくんじゃ…ないぞ』
「…ッ。おじいちゃん…ッ!!」
幸は握り締めている幻次郎の着物を、一層強く握り締めた。
頬には涙の跡が描かれている。
『…………。』
幻次郎からの返事は、無くなった。
三人は暫くその場で泣き崩れて居たが、メイド達によりなんとか立ち上がる事が出来た。
勿論、メイド達も涙を流していた。
幸が後から聞いた話では、幻次郎は度々脳梗塞で倒れて居たらしい。
彼の無理強いが最悪の結果を招いた。
優しい祖父のことだから、家族に心配させたくない思いで、脳梗塞の事は誰にも打ち明けて居なかったのだろう。
辛い思いとやり切れない思いが入り交じり、身体に疲労が溜まる。
自室に戻った幸は己の唇を強く噛んだ。
開けた窓からは、自分を嘲笑うかのように光る大きな月。
虚空をさ迷う瞳で、澄んだ月をいつまでも眺め続けていた。
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