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『お嬢様。マヤでございます』
小さなノックの後に、ハキハキとした声が聞こえた。
その後扉がゆっくりと開き、背の高いメイドが現れた。
彼女は、幸が幼い頃からこの屋敷に務めている幸の専属メイド。
しっかりと仕事をこなし、幸にとっては頼れるお姉さんのような存在。
専属メイドのため、幸の身の回りの世話をしている。
『お嬢様。明日、幻次郎ご主人様の葬儀がございます故、喪服を出しておきました』
「………」
『幸、様…』
マヤは抜け殻になった幸の様子に、一瞬目を伏せるものの、すぐに笑顔となった。
『では、此処に置いて行きますね』
「……マヤ」
『はい?如何なされましたか?』
「全部…やり直せたら良いのにね…」
引き留めた少女の表情は、「無」だった。
『……。過去はもう戻りません。だから悔やんでも仕方ありませんよ。今を精一杯生きましょう。ね?』
優しく説得するマヤ。
彼女も辛いはず。
それでも笑っていられるのは、幸の事が大好きだから。
幸が苦しむのなら、自分の感情などどうなっても良い。そう思っているから。
「あり…がと…」
『幸様…。よっぽど泣いていらしたのですね…』
泣き疲れて眠ってしまった少女の頬に描かれている涙の跡を見たマヤは、眉を下げた。
『私が…未熟だから…』
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