∮旅路∮

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  「ねぇ、シンラ君」 「ん、どうした?」  それは馬車に揺られて暫くした頃だった。  隣に座るカイトの異名を持つ馬鹿を……いや、逆だったか。馬車の外に蹴落としてやろうかと黙策していると、目の前の女の子から声が掛かった。  女の子は、うん…と言いにくそうに口ごもった。 「本当に……良いのかな?」  またか、と俺は頭をガシガシと掻く。  もう何が、なんて聞く必要は無い。それ程までに繰り返されたこの問答に大きく頷いた。 「良いっての。むしろコユキと…この馬鹿が一緒なのは俺も助かってるんだから」  親指でカイトを指さすと「ツンデレ乙」と呟く声が聞こえてきた。  よし、後で突き落としてやろう。  しかしその前に俺はゴホンッと咳を付いて真面目な顔を作った。 「なぁ、コユキ。一人誰も知らない所にいてみろ。考えるだけで憂鬱だろ?」 「う、うん」  何やらそれに感化されたのかコユキも真剣な表情になった。  この際だ、もうこの問答が無くなるように少し大袈裟な方がいいか。それにコユキを強調した方がインパクトがあるな。 …よしよし。  はぁ、とため息をつくと今度は愁いを帯びた表情を作った。 「だろ?俺にはコユキが必要なんだよ」   「……もう一回言って?」 「だから俺にはコユキが必要――」 しまった!嵌められた!  
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