1041人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、シンラ君」
「ん、どうした?」
それは馬車に揺られて暫くした頃だった。
隣に座るカイトの異名を持つ馬鹿を……いや、逆だったか。馬車の外に蹴落としてやろうかと黙策していると、目の前の女の子から声が掛かった。
女の子は、うん…と言いにくそうに口ごもった。
「本当に……良いのかな?」
またか、と俺は頭をガシガシと掻く。
もう何が、なんて聞く必要は無い。それ程までに繰り返されたこの問答に大きく頷いた。
「良いっての。むしろコユキと…この馬鹿が一緒なのは俺も助かってるんだから」
親指でカイトを指さすと「ツンデレ乙」と呟く声が聞こえてきた。
よし、後で突き落としてやろう。
しかしその前に俺はゴホンッと咳を付いて真面目な顔を作った。
「なぁ、コユキ。一人誰も知らない所にいてみろ。考えるだけで憂鬱だろ?」
「う、うん」
何やらそれに感化されたのかコユキも真剣な表情になった。
この際だ、もうこの問答が無くなるように少し大袈裟な方がいいか。それにコユキを強調した方がインパクトがあるな。
…よしよし。
はぁ、とため息をつくと今度は愁いを帯びた表情を作った。
「だろ?俺にはコユキが必要なんだよ」
「……もう一回言って?」
「だから俺にはコユキが必要――」
しまった!嵌められた!
最初のコメントを投稿しよう!