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そして僕は喜び、怒り、哀しみ、楽しみを感じたことがなかったから。感じることの出来ない僕には、きっと。
そう、僕にはきっと感情がないんだと思った。
そして、もう一つ僕には此処にいるという真実だけでよかったから。感情を捨て、偽善に満ちた心なんて……絶対にいらなかったんだ。
なのに僕は〝ここ〟にいる。偽善を嫌っているのに。僕は、偽善行為に努めていた。
毎晩、毎晩。お金をいっぱい持っているような家に入ると、お金を盗み、貧しい人に渡していた。
この行為が果たして、いいことなのかはわからない。だって、それは僕には判断出来ないことだったから。
それが、ただ僕が満足するためにやっているのか、誰かのためなのか。
僕にはわからなかった。
いや、忘れてしまっていたのか。それは闇に溶けていった。だって心を、拒絶した僕だから。
わかるはずがないんだ。
そして、答えが見つからない僕はいつも晩になると盗みに出ていった。
僕が〝ここ〟に居る始まりは一人の少女に出逢ったからだった。
そして、そのことが僕に心について興味を持たせた初めての瞬間だったのだから。
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