第9章 結ぶ実

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佳子は碑の前でしゃがみ込むと、そっと地面を撫でた。 緑の山々に包まれ南北に延びた滑走路も、営門も、戦闘指揮所も今となっては跡形も無く消え去り、戦後の歳月を途方も無く佳子は感じた。 『佳子…ホテルで婆ちゃんが待ってるから、もう行くぞ-』 佳子は顔を上げて卓を見た。 『卓ちゃん、先に戻って私この辺少し歩いてみたいから』 『はっ?』 『あっ大丈夫よ、ホテルはここから近いし国道沿いにあるのさっき見えたから』 『明日、慰霊祭終わった後で又来れば? 取りあえず婆ちゃん待ってるし行くぞ』 『…でも』 『言っとくけど、単独行動は禁止な』 卓は下館飛行場跡地で遭遇した不可解な出来事を重ね敏感になっていた。 あの下館飛行場跡地での事に関して、何が起きたのか何も覚えていないと言う佳子に、突っ込んで聞く事が出来なかった卓だったが、疑問は今も引きずっていた。 再び戻った佳子が、抱えていたあの男物の着物で作った服… その服を抱きしめ泣き続けた佳子… 何も覚えていないといいながら、佳子は朝も昼も夜も泣き続けた。 それは、余りにも不可思議極まりない事として卓の中に残ったままとなっていた。
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