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「なんつー夢だ…」
夢から目覚めた少女は溜め息をつく。寝汗がひどく、背中にシャツがべたりと引っ付く。
最悪の気分だ。
最高の夢ではあったが。
自分が主人公になる夢。
夢の中での少女はまさに主人公と呼べる活躍をし、現状とは比べられない程に輝いていた。
だが、それが夢であったからこそ、現実ではなかったからこそ、少女はひどくイラつくのだ。
少女はタオルケットを蹴り飛ばし、シャツを脱ぎ捨てる。
そしてカゴからバスタオルを引っ張り出して、シャワールームに入った。
シャワーから噴き出される水が少女の体を冷やしていく。だが彼女には燃えたぎる怒りがあった。
「…………っ!」
ガンと少女は壁を殴る。
「あのクソ本がぁぁ!今度会ったら、使い切ってブックオフよ!」
最強の魔王ゼタ。彼こそが少女を現状に追い込んだ張本人。
彼女は今、ゼタの独断で主人公になるための修行をやらされているのだ。
「いつになったら解放してくれんのよ~」
シャワーに混じって少女の涙がこぼれる。
「ううん、泣かないで私。あの日に比べたら、ずいぶん強くなれたし。もうすぐ……」
シャワーを止め、涙を拭う。
「もうすぐ、このアサギ様の勇姿を全世界に見せつけてやる日がくるはずよ!」
「裸で、んなこと言っても説得力ないがな………………っス」
アサギの横で湯船につかる、いや浮いていたペンギンの人形のようなものが喋り出した。
「ジョ、ジョニー!あんたいつから!」
慌ててバスタオルで隠すアサギ。
「最初からだ。俺を誰だと思っている?ゼタ様から遣わされたお目付役プリニーだぞ………ッス」
ざばぁと、バスタブから颯爽とあがるジョニー。
「強くなることはいい。だがヒロインとしてのスタイルも気にすることだ。巨乳でもなければ貧乳でもない中途半端な体型のお前ではぶっ!」
「いいから出てけ!この変態ペンギンがぁっ!」
バタンとシャワールームの扉が閉まった。
「やれやれ、困ったちゃんだぜ…………っス」
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