一幕 再会

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  「いた……い」  男の手に絡みつく黒髪。しなやかで柔らかく、傷んだ箇所など何処にも見受けられない。日本古来から受け継がれてきたであろうその黒さは、何処までも綺麗だった。  対する男の髪は若者らしく茶に染められてはいるものの、傷むことなくさらさらと揺れる。対極的な二人であれども、年端は二人とも二十代前半の同じくらいだろう。 「気楽なもんだな。俺が死に物狂いになりながら成り上がってる最中、ずっと優雅に暮らしていたというわけか」 「はなして……」  女性が苦痛に顔を歪めるのにも動じる事なく、男は見たくないものを見るかのように女性を侮蔑の眼差しで睨み付ける。 「はなして……ねぇ?」  そう呟くと笑みを浮かべ、女性の髪を掴んだまま引き摺るようにドアのある方へ歩き出した。 「滝下(たきした)! 鋏(はさみ)を用意しろ!」  ドアから顔を出し、男は階段の下に向かって叫ぶ。暫くすると足早に階段を駆け上る音が響いた。 「鋏なんて何に使うんです? 時史(ときふみ)様?」  姿を表したのは三十代半ば程のスーツ姿の男――滝下。秘書と言った風体で、眼鏡が良く似合う。手には鋏が握られており、鋭い刃先が鈍く光っていた。  
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