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「こう使おうと思ってな」
女性の髪を掴んだまま、滝下から鋏を受け取ると男はそのまま女性の髪を切り落とした。金属と金属の擦れ合う音が女性の耳にこびりつく。
「……時史様……それは流石に」
鋏を用意した滝下も男――時史の行動には引いてしまったのか、苦虫を噛み潰したような表情で言葉を濁した。
「滝下。お前まさかコイツが女だと思ってないか?」
時史は滝下を嘲笑いながら、女性から切り離された髪を乱雑に髪を床に落とす。髪を勝手に切られたショックからか女性は俯き、涙を滲ませたまま微動だにしない。
「よく見比べろよ、滝下。コイツとオレの顔を」
時史が女性の前髪を掴み、半ば無理矢理に顔を上げさせると空いてる手でサングラスを外した。
「……そんな」
滝下から溢れたのは驚愕であり、瞬きを繰り返しながら二人の顔を交互に見る。そんな様子を得意気に観察し、時史は笑った。
「久しぶり。空樹兄さん……人形ごっこは楽しかったかい?」
時史は女性――空樹に向かって柔らかく微笑む。空樹も滝下と同じように驚きを露にしたまま、次の言葉を紡げずにいた。
今空樹の目の前にいるのは、鏡を覗きこんだ“自分”と同じ顔の人間。寸分違わず、瓜二つの顔に空樹は気味悪ささえ覚える。
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