一幕 再会

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  「時史様、これはどういう……」  滝下にとってこの状況は想像の範疇を超えていたのだろう。幽霊か何かを見たかのように冷静を失い、それでもどうにか落ち着きを取り戻そうとしていた。 「見てわからないか? 滝下。コイツはオレの双子の兄だ」 「しかし時史様には兄弟はお一人も……」 「しかしもくそもねぇよ。いたんだよ。ただし、十何年も前に物好きなオヤジに売られたんだ」  侮蔑の視線を座り込んだままの空樹に向け、時史は八つ当たりをするかの如く前髪を乱暴に離した。 「それが先日亡くなった西園寺氏だ。コイツ……加賀宮空樹はずっと西園寺氏の死んだ娘・鏡華を演じて慰めてたってわけさ」  スカートを履きうっすらと化粧をした顔や身体を滝下が恐る恐る見る。確かに女、と言うには少々肉の付き方が固いようだった。しかし時史も男らしいと言った顔つきではなく、むしろカテゴリーするならば女顔の部類であるため、女を演じることは可能だったのではないかと滝下は考える。 「そんなことが……」 「許されるんだよ。あの女は昔から金の為ならなんだってする。空樹兄さんを売った金で遊び回り、しまいには借金も拵えた……馬鹿すぎる」  嘲笑を漏らし、時史はタバコを胸元のポケットから出した。ジッポで火をつけると、一息深く吸い込んで肺を煙で満たす。細く吐き出された煙が、白い道を生み出した。  
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