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「まぁ、あの女の金遣いの荒さのお陰でオレは成り上がれた訳だが……コイツはただ与えられた場所で与えられた役目を何も考えず生きただけだ。ヘドが出る」
明らかに自分に対して怯えている空樹に満足した表情で、時史は近くの椅子に座る。
「だが、コイツは金を運んできた。一度だけじゃない。二度もだ」
「二度?」
「西園寺氏は遺言で自分の全財産を加賀宮空樹に相続させる、と明記していた。コイツの身内はオレとあの女だけ。まさにコイツは葱を背負った鴨だな」
くぐもった笑い声を漏らしながら時史は足を組み、怯えて踞る空樹に冷ややかな視線を向けた。
「滝下。香山(かやま)を呼べ」
「香山さんを……?」
「ああ、今日中にソイツの髪型や服装をオレと全く同じに仕立てさせろ。内密にな」
時史の黒く染まった笑みを見た空樹は救いの表情を滝下へと向けると、滝下が優しく微笑み返す。ほっとした表情を溢した瞬間、空樹は滝下の目が笑ってないことに気付いた。
「……いやぁ」
空樹の口から漏れた声に明らかな不快感を示して、時史は舌打ちをする。
「滝下。ついでにある程度その気色悪い口調を直させろ」
「今日中に、ですか?」
「今日中に、だ」
「かしこまりました。では、そのように」
深々と時史に頭を下げると、滝下は乱雑に空樹の腕を掴むと引き摺る形のまま部屋をあとにした。
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