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「いたい、はなして!」
滝下に引き摺られるように歩きながら、空樹が声を張り上げた。聞こえているはずなのに滝下は問答無用で歩き続ける。
「ゆるして、いたいの」
空樹が涙ぐみながら弱々しい声を上げると突如滝下が足を止め、空樹の首を掴んで壁に叩きつけた。首を絞めた訳ではないが、突然の仕打ちに空樹は恐怖を滲ませる。
「……女々しい話し方は止めて頂けませんか? なるべく、時史様のような話し方をしていただきたいのですが……無理なようならば、身体に叩き込みますよ?」
空樹の首を掴んだままずれた眼鏡を正し、滝下は満面の笑みを空樹に向けた。レンズの向こう側にある黒い眼は、冷ややかに空樹を刺す。
「……あ、え……わ、わかり……わかった」
恐怖に晒されながらも空樹は懸命に正解の口調を探しだし、そう答えた。感心したような表情で滝下が空樹を見る。
「正解です。そうですね、まず着替えましょうか。ドレスを着たままのアナタを香山さんに見せるわけにはいきませんし……」
首から手を放し、滝下はため息を漏らした。時史が乱雑に切ったため、空樹の髪はまだ長い部分もある。内密のまま空樹を時史に仕立てるには不自然さが残るだろう。
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