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一人、西園寺鏡華の部屋に残り時史は気だるげに窓の外を見る。窓硝子に写る自分の姿を睨みつけた。
「やっとだ……やっと見つけた」
全く押さえきれない笑い声を溢しながら窓を殴る。何度も何度も繰り返し繰り返し、その行為を続ける姿は何処か狂気が滲んでいた。
「長かったね、兄さん……ずっと探してたんだ。ずっと……」
三日月のように歪む口元から漏れる笑い声が段々と大きくなっていく。それに伴って硝子を叩く強さも強くなり、硝子がサッシにぶつかる音が響いた。
突如、乾いた音と共に硝子が割れて時史の拳が窓から突き抜ける。硝子で切ったのだろう。紅い鮮血が幾筋も拳から滴り落ちた。自らが開けた穴から拳を出すと、血の筋を見つめる。
そしてそのまま高らかに笑い続けた。
それはまるでオペラ歌手が舞台の上で、白いスポットライトを浴びながら黒い客席に向けて歌うように。
ぱたりと笑うのを止めると、振動をしなくなった空気を風がさらう。
風が連れてきた花の香りが時史の鼻を掠め、彼を宥めようとした。しかし、時史はそれを受け入れずにただ静かにその場に座り込む。
薄紅色の花びらが数枚、時史の所に舞い降りた。窓の外は青く晴れ渡り、白い雲が優雅に空を泳ぐ。
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