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連なるクローゼットに一台の化粧台。その部屋はそれほど広くはない。部屋の中心に立ち、空樹は自らの頭を撫でた。少し前までは長かった髪が今は無惨な長さになってしまっている。
「……双子の、弟」
自分と同じ顔をした時史の顔を思い浮かべながら、空樹は化粧台の鏡を見つめた。髪を整え、色を染めれば見分けることは困難になるだろう。
「私の……いいや、オレの名前は加賀宮(かがみや)時史……」
そう呟いて空樹は化粧台の上に置かれたウェットティッシュを手に取る。化粧を落としてしまえば、もう“西園寺鏡華”ではない。
化粧を半分落としたところで名残惜しいのか手を止めた。
「……御父様……さようなら」
その決別の言葉は強制されたものではない。彼自身、西園寺の死と共に役目を失って曖昧な意識の中にいた。
そこに現れ、新たな役目を与えたのは――双子の弟である時史。化粧を全て落とし、空樹はゆったりと時史のように微笑む。
「すみません。お待たせしました。香山さんが来るまで三時間あります。それまでに一通りしませましょう」
そう言ってドアを開け、入ってきたは滝下だ。次の瞬間、滝下は言葉を失った。
髪はまだ切り揃えておらず黒いまま。着ている服も女物のドレスだというのに、振り返ってこちらを見る目は滝下が始めて合った時の時史と全く同じ。
『……オレの駒になれ。滝下』
時史に始めて言われたそんな言葉を滝下は突如として思い出した。
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