一幕 再会

11/11
前へ
/24ページ
次へ
  「……時史、様」 「滝下さん。こんな感じでどう? 時史に似てますか?」  驚きを隠せずにいる滝下に対して、時史とは異なる無垢な笑顔で空樹は問う。瞬きを繰り返し、滝下が唾を飲み込んだ。 「……そうですね、上出来です」 「良かった。ボク、演じた感想って聞いたことないんです。鏡華はほとんど西園寺さんの顔色を伺って演じてたので」  けらけらと楽しそうに笑う空樹に時史のような冷たい印象はもう無かった。しかし、短時間での変貌に滝下は空樹に恐れさえ抱く。 「……アナタは時史様とは何時まで一緒に?」 「ほとんど記憶にありませんが、西園寺さんに買われてから十五年なので五歳の頃だと思いますよ」  それはほとんどゼロから“加賀宮時史”を作り出したということに等しい。 「滝下さんと時史の前だけなら、素でいいんですよね? 多分、ずっと時史だと滝下さんは見分けつかなくなっちゃうと思いますから」  空樹の豹変ぶりに言葉を失っていた滝下ではあったが、すぐに頭を切り替えて空樹に時史が着ていた服と同じようなものを手渡した。 「これに着替えてもらいます。その前に、髪を染めて切り揃えましょう」 「わかりました。時間、あんまりないですよね? すぐ始めましょう」  意気揚々と話す空樹に滝下は利用価値を見出す。しかし視線の端で翳りゆく空樹の表現に気付くことはなかった。  
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加