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部屋に響く時を刻む音。古びた時計から奏でられるその音は、まるで危機を警告しているかのよう。
そんな中で時史はただ静かに眼を閉じて、自らが開けた窓の穴もそのままに目を閉じて椅子に座っていた。
微動だにしていないために寝ているようにも見えるが、寝息は聞こえてこない。
「時史様」
時史から放たれる雰囲気によるものなのか、滝下によって開けられるドアは心なしか重さがある。
「……空樹兄さんは?」
ゆっくりと目を開き、部屋に入ってきた滝下の背後に空樹がついてきていないことに気付いた時史が冷ややかな声を漏らした。
「香山さんに髪を整えてもらっていますが、服を着替えただけでも僕には見分けがつきません」
「そうか」
自ら聞いたと言うのに直ぐに関心を失い、短いため息を溢す。
「驚くのは容姿よりも演技力の方ですね。生きるために身につけたのでしょう」
「……滝下。たったアレだけの時間でほだされたのか?」
馬鹿にするように笑う時史に対し、滝下ははっとしたように驚きを表した。
「そういう訳では……」
「別に責めるつもりもない。が、アレはオレの影武者も同然だ。お前もアレを加賀宮空樹として見るな」
時史から放たれる憎しみの感情に滝下が言葉を失う――否、音が響くことを止める。時の音でさえも。
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