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「……時史様は彼をどうなさりたいのですか?」
再び響いた声は時史の雰囲気に呑まれ、震えていた。それを気にも止めず時史が目を伏せる。それは答えたくないと態度で示しているかのようだった。
「滝下。今日の予定は?」
「今日のですか? 今日は真遊子様がお会いになりたいと……あと、例の案件で一人来客が」
手帳を忙しくめくりながら滝下が答えると時史は抑えきれないように嘲笑を漏らす。そこには狂気が滲んでいるかのようで、滝下は思わず身震いをした。
「ならばそのどちらも空樹に代わってもらう」
「しかし時史様……!」
「滝下。お前、考えたことはないか……? もう一人自分がいたら嫌なこと全部やらせるのに、って」
心から嬉しそうに笑う時史は、無邪気に声を弾ませるがやはりそれは何処か歪で冷やかささえ含む。
「それは……そうですが」
「滝下。なら問題は無いだろう? 真遊子には希望の額を渡せ。例の案件については兄さんに任せる」
「わかりました。しかしその間、時史様は何をなされるのです?」
滝下の問いには答えず、サングラスを掛けて顔を隠すと時史は立ち上がった。
「時史様……?」
「夜には戻る」
そう言ってそのまま時史は部屋を後にする。残された滝下が短くため息を溢した。
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