序幕 西園寺鏡華

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  『鏡華は何色が好きだ? さぁ言ってご覧なさい』  それは少女が男に買われてからすぐのこと。男の住む豪勢な屋敷に連れてこられて、少女の部屋だと案内されて男は優しく言った。  少女の部屋は愛らしい家具に囲まれ、その家具全てが高価なものである。白や桃色が基調となる壁や床、カーテンが純潔や可愛さを現していた。 『うつぎは……あお。あおがすき!』  楽しげに笑って男を見上げた瞬間、幼い頃の少女は言葉を失って身体を強張らせる。  男が少女に向ける笑顔。それは一見すると微笑ましそうに見えるだろうが、少女は気付いた。瞳の奥が暗く陰り、内なる怒りの炎を灯していることに。 『もう一度。もう一度言ってごらん? 鏡華……何色が好きかい?』  少女の目線に合わせて座り、男は少女の肩に手を置いた。言い知れぬ恐怖が少女に襲いかかる。それは冷ややかな空気を伴い、背筋に一筋の氷が伝った。 『う……つ……』 『もう一度、言ってごらん?』  自らの名を発しようとした瞬間、少女の肩を掴む男の手が指が少女の肌に強く食い込んだ。苦痛に顔を歪め、涙を滲ませる少女を目でたしなめる。 『ピン、ク……きょ、かは……ピンクが、すき……』  声を震わせながら、少女は喉奥から音を漏らす。消え入りそうなほどに小さな答えに、男は満足そうに笑っていた。  
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