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それから続いたのは強要の日々。家から出ることも許されず、ただ知識と立ち振舞いを仕込まれた。とは言え、知識と言えども生きるためのものではなく学力と呼ばれる類いの情報でしかなかった。
求められるものにひたすら応え、へつらう日々。喜びは誉められた時にだけ現れる。
言うなれば“生きたアンドロイド”。本人の意思や感情には関係なく進められ、主人が喜ぶために在るのだから。
『はじめまして、鏡華ちゃん。わたし、佐倉理音(さくらあやね)。よろしくね』
男に買われてから約七年、少女が十二歳の時。少女は始めて同じ年頃の女の子と出会う。自分よりも少し幼く、愛らしく笑うその子は少女にとって輝いて見えた。
『理音……ちゃん?』
ふわふわと空気を含んで揺れる癖っ毛は茶色を帯びて彼女の天真爛漫さを更に増長させる。
少女に手を伸ばす彼女の手は驚く程に白く、太陽の光でさえ彼女を汚すことが出来ないのだろう。それほどまでに彼女は無垢だった。
心の端に不安を抱えながら、少女は彼女の手を取ると沸き上がる喜びを抑えきれずに微笑む。それは男に従い続けたことで枯渇した感情が、今再び芽生えた瞬間だったのかもしれない。
あるいは少女の知らぬ未知の思いが心の底に生じているのかもしれなかった。
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