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 私は子供のころ、確かに、夜が怖かった。  それは夜には必ず幽霊というようなのがいるに違いないと思われてならないからであって、どういうわけか、昼間は怖くない。もちろん、それは単に視界の明るさの問題ではなく、実際に部屋を暗くしても幽霊は出てこないのが当然のことであったし、子供のころに通った映画館の一室も、むしろその暗さは私に増幅する期待感を与えてくれるものに過ぎなかった。  そう、夜なのだ。  幽霊とかいう奴は私にとっては夜行性のまさに動物であって、そしてそれは無条件に、私にとっての脅威であったのである。故に私は子供のころ、夜が怖かった。  私はある日つまらない実験をした。なんてことはない。本当につまらない実験だ。私はある日両親が寝静まってから、ひとりで朝まで起きていたのである。  これは実につまらない話だが、当時の私にしてみれば、まさにそれは、この世で最も勇気のいる、命をかけた決断であった。私に内在している探求心が、とうとう他の本能を打ち負かしたのである。  恐怖心からか、少し時間が経つと自然と眠れなくなった。幽霊を探すのが目的ではないため、特別することもない。しかし、例えば一室の明かりをつけてひたすら読書にふけようと思っても、ある瞬間瞬間に背筋が凍り、振り返っては温めを繰り返すだけで、まったく頭に入ってこなかった。  私がそれを実につまらない実験であったと言うのは、結局幽霊が現れなかったからではない。それがつまらない実験であったというのは、そもそも私は、幽霊が目に見えるのかどうかもまったく知らなかったからである。  まったく、何度思い出してもつまらない話だ。  今現在、私はものを書いている。娘が起きている間は、なるべく書斎に閉じこもらないようにしていた。すると自然に、私は毎夜にひとりでいる。  四十年近く生きてきた経験では、少なくとも幽霊とかいう奴は私に何も干渉してこない。もし子供のころの私がこの事実を経験していたならば、さぞ生き生きと日々を過ごしていたことだろう。  しかし幽霊はいる。それは今でも信じている。ただし、それらは私に見えないだけなのだ。  ――ふと、ペンを置く。  そうして私は今日も、妻がそばにいる気がしていた。
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